蛙石になった長者の娘と若殿
どんな伝承か
熊本城下から北へ四里ほどの平尾山の東のふもとと、谷を隔てた石塚山の森に、蛙の形をした大石が一つずつある。土地では麓のものを女石、森のものを男石と呼び、夜ごと女石が切り開いた道を通って男石のもとへ行くという。昔このあたりが大河だったころ、正院郷の長者の一人娘が、隣村の石村長者の若殿に恋をした。逢う手立てのない娘は、蛙が川を泳ぎ渡るのを見て自らも水に飛び込んだが渦に呑まれ、後を追った若殿も力尽きた。若殿の亡骸が打ち上がった石塚山の中腹に蛙の石が現れ、娘の執念も水底で蛙石になったと伝わる。里人は今も二つの石を結ぶ山道の草木を払い、二人を弔っている。
原典より
近郷の人々は、この二つの石を、どちらも蛙石と呼び、ふもとの石を女石、森の中にあるものを男石といって、いまだに夜になるとこの女石が、切り開かれた道を通って、男石のところに通っているのだという。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。