天狗の花見の日に山へ入った親子
どんな伝承か
長生郡西村岩船に住むある剛情者の男は、三月四日は天狗の桜見だから入山を禁じるという言い伝えを聞き流し、女房の制止を振り切って柴刈りに山へ入った。昼を過ぎても戻らず、心配した女房のもとで息子が空を指し父の呼ぶ声を聞いたと言って山へ駆け出し、行方が知れなくなった。村人総出の捜索の末、崖の下で柴を背負ったまま息絶えた父・弥五兵衛の亡骸が見つかったが、息子は二度と見つからなかった。父は天狗の祟りを受け、息子は天狗にさらわれたのだと村では噂された。
原典より
三月四日は、天狗様の桜見と言つて、山には、里人は勿論、子供でも、絶対に入らない。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。