十八僧正が切り落とした天狗の片翼
どんな伝承か
長南の三途台長福寿寺は二十八字にもなる長い山号寺号を持つ古刹で、御朱印五十石を受け、房総四檀林の一つに数えられた。最澄自筆の結縁の記を蔵し、三途台の額は日光輪王寺の宸筆と伝える。九代目の住職という十八僧正は、わずか十八歳で僧正に昇った人で、この地に入る際、どこからともなく現れた童子が供を願い出た。名を問えば天狗と答えたが、僧正は許して寺に置いた。ある日、童子の部屋を覗くと鼻を長く伸ばして眠っている。僧正は長刀を取って切りつけ、庭の松に逃げ登るところを片翼だけ切り落とした。この天狗の片翼は寺の什物だったが明治の火災で焼失し、天狗のいた部屋には誰も恐れて入らなかったという。
原典より
『三途台長福寿寺を、三途河頭極楽東門閻浮大乗本実成院阿弥陀坊と言ふたら、其れは、埜山閻浮大乗本実成院阿弥陀坊長福寿寺。—— 日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 上総の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1917年(大正6年))
『日本伝説叢書 上総の巻』は、藤沢衛彦が大正六年に編んだ上総国の伝説集である。夷隅・長生・山武・市原・君津の五郡にわたり、地名の由来、社寺の縁起、城と武将の事跡、大蛇や狐つきの怪異、俚謡や民間の風俗を、口碑や『総国誌』などの地誌から集める。巻頭に著者の序と緒言を置き、上総国と郡の名義を説いたのち、郡ごとに町村の所在を添えた見出しで一話ずつ並べる。