十州を一望する鋸山の奇岩と羅漢
どんな伝承か
保田の東に、鋸山と呼ばれる一山がある。安房と上総との境をなし、山の形が鋸の歯に似ているのでこう名づけられたという。『房総志料』にも、保田の東に鋸山という山があり、その形が鋸に似て奇巌があり、まことにその名の通りだと見えている。山上には名石・奇巌・洞窟・塔堂・五百羅漢・石像大仏・石造地蔵・選磨碑などと題する名所があり、とくに五百羅漢は山の各所に配置され、千二百体の石像を刻むなど極めて多い。大仏は今はこわれた有様で、手より上、首は半分がないという。山頂には十州一覧台があり、安房・上総・下総・常陸・上野・下野・武蔵・相模・伊豆・駿河の十州が一望のうちに集まるので、この名があるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。