薦を拒まれた頼朝と増間の祟り
どんな伝承か
治承四年八月二十九日に安房へ着岸した源頼朝は、猟島に入り、安西景連の館へ向かおうと駒を急がせたが、途中で日が暮れたため、ますま(増間村)という所で宿を乞うた。ところが家の主人は頼朝らの落魄を侮って断り、やむなく居室へ通した。主の寝所に薦の重ねてあるのを見て、土肥実平が頼朝のために一枚を求めたが、主人は、薦は正月でなければ用いないものだと言って頑として応じず、頼朝も実平も敷板の上に臥した。これより、この家の者は畳を用いるまで薦を敷くことができず、強いて用いれば祟りがあるという。「房総志料」は、これは一軒だけでなく一村すべてがそうだと記している。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説叢書 安房の巻(藤沢衛彦・日本伝説叢書・1919年(大正8年))
『日本伝説叢書 安房の巻』は、藤沢衛彦が大正八年に編んだ安房国(千葉県)の伝説集である。天富命の渡来や源頼朝・里見氏・日蓮にまつわる英雄伝説を中心に、社寺の縁起、風俗・信仰、船幽霊や一本足の蛸などの特異な伝承を、『安房志』『房総志料』などの地誌や寺伝・口碑から引いて収める。緒言と「安房国と牛」と題する序を巻頭に置き、鋸山から小湊まで各話に所在の郡村大字を添えて土地ごとに並べ、緒言では百八十六種を蒐集したと記す。