夜ボリの谷に轟いた天狗倒し
どんな伝承か
藤原の里に川狩りの名手と知られた中島定吉という老人がいた。昭和十九年八月のある夜、仲間の中島政太郎と二人で利根源流の水長沢と金銀の沢が落ち合うあたりへ入り、夜ボリを試みると、尺を越える岩魚が三十尾以上も揚がった。大漁に我を忘れていると、両岸の切り立った山腹から、大木を伐り倒すギリギリ、ドンドンという轟音が起こり、丸太を転がすようなガラガラという音まで響いてきた。さらに人が不気味に笑うようなケラケラという声がこだまする。二人は青ざめて逃げたが、一キロ近く離れてもその音は追ってきた。翌朝、逃げる途中で落とした岩魚を探しに戻ったが、一尾も見つからなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 1 河童・天狗・神かくし(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 1 河童・天狗・神かくし』は、松谷みよ子が編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞書で全国から寄せられた話と、郷土誌や雑誌『旅と伝説』などからの引用を、県別に話者・回答者・出典を添えて並べ、奄美・沖縄のケンムンやブナガヤにも及ぶ。目次では河童・天狗・神かくしの三章の頭にそれぞれ「考」を置き、巻末に河童の名称、天狗・神かくし年表、あとがきを掲げる。