蕨峠の辻堂で狼と縊死者に遭う
どんな伝承か
遠野郷から山越しで気仙郷へ行く道に蕨峠がある。二十年ばかり前、旅役者の市川某が遠野で師走芝居を打ち切り、大晦日の夜に一人でこの峠にかかった。雪が降り出し、峠を越えて下りにさしかかると、向かいの尾根で狼が吠えた。追い迫る声に無我夢中で駆け下り、辻堂を見つけて駆け込む。狼は外戸の狐くぐりから前足を入れて掻き立て、堂の周りを回りながら夜明けまで吠えていた。ようやく安心して首をかしげると、冷たいものが頬に垂れた。若い女が梁に腰帯を掛けて縊死しており、その髪であった。某はその場で気絶したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。