引き渡しの相談を聞いて消えた迷い猫
どんな伝承か
昭和四六年頃、東京都練馬区東大泉の家に、茶色の混じったペルシャ系の雄猫が迷い込んできた。ソファーに悠然と寝そべる王者の風格で、先住の赤虎猫も動じず穏やかに過ごしていたという。一週間ほどして知人がこの猫を見分け、千メートルほど離れた飼い主宅のものと判明し、翌朝に中間地点で引き渡す約束を交わした。猫はその会話をソファーで聞いていたようで、翌朝いつも通り外出したきり二度と戻らなかった。後にこの家出は三度目だったと知り、家族は連れ戻されるのを嫌って姿を消したのだろうと語り合ったという。文・下村澄子(東京都在住)。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 10 狼・山犬、猫(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 10 狼・山犬、猫』は、松谷みよ子が日本民話の会の『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きで全国から集めた話を編んだ現代民話の資料集である。明治以降を目安に、狼への畏れと信仰、送り狼や千匹狼、化け猫や猫の踊り、戦中の猫の供出、水洗トイレを使う猫までを収める。序文と各章の前文に続いて「狼・山犬」「猫」の二章を主題別の節に分け、各話例の後に類話の採集地・話者・出典を「分布」として並べる。