製糸工場の水車の音と消えた花柄草履
どんな伝承か
語り手の姉が岡谷の製糸工場へ勤めに出ており、正月に帰ってきたときに話してくれたことだという。工場では蒸気の止まった夜中にも水車がギィーッ、ギィーッと音を立てる。ある晩、姉が同僚を起こして二人で便所へ行くと、やはり遠くでその音がしていた。便所の鼻先には、いつもの竹の皮の草履ではなく美しい花の絵の草履が二足あった。履いてみたはずが、便所の中に入ったときには裸足だった。隣と壁を叩き合って確かめると相手も同じで、二人とも履いた草履が足になかった。むじなに化かされたのだと肩を組んで部屋へ逃げ込んだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年))
『現代民話考 11 狸・むじな』は、松谷みよ子が一九九五年(平成七年)に編んだ現代民話の資料集である。明治から現代までに各地で語られた狸・むじなの話を、聞き書き、読者の回答、郷土誌や民話集、新聞記事から集める。狸火、腹つづみ、音まね、いたずら、化かし、たたり、人助け、戦争にいった狸、今の暮しなど十二の部に分け、話例ごとに本文と類話の「分布」を添え、巻頭に序文と前文、巻末にあとがきを置く。