温泉宿で石鹸を菓子と噛んだ母
どんな伝承か
昭和一〇年ごろ、秋田県山本郡藤琴村の農家の母さんたちが、連れ立って温泉へ出かけた。旅館の部屋に通されて着替えていると、女中が紙で包んだ石鹸を持ってきて畳の上に置いた。それを見た一人がいきなり手を伸ばし、包み紙を歯でむしり取ってかじりついた。口に入れてはじめて石鹸と気づき、窓辺へ走ってペッペッと吐き出したという。あとで何のつもりだったのかと聞かれると、旅館に泊まると紙包みの菓子が出るものだと映画で覚えており、それだと思い込んだのだと答えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 12 写真の怪・文明開化(松谷みよ子・現代民話考(立風書房)第十二巻・1996年(平成8年))
『現代民話考 12 写真の怪・文明開化』は、松谷みよ子が一九九六年にまとめた現代民話の資料集で、同シリーズの第十二巻にあたる。雑誌での呼びかけやアンケート、聞き書きで寄せられた話と新聞・雑誌の記事を、心霊写真をめぐる怪異と、明治以降の電信・汽車・電気燈などの新しい文物や流行病に戸惑う人々の話に分けて収める。話例ごとに本文を掲げて各地の類話を分布として並べ、話者や回答者の名と出典を添える。