神棚へ消えた戦病死の兵の火の玉
どんな伝承か
昭和十九年、恵那郡の下外洞という部落の大野家で起きたこと。二男の二郎が兵隊に取られて病に倒れ、陸軍病院で重体となったので、母親は軍からの知らせを受けて面会に出かけた。留守番の語り手の母と上中のおばあさんが、囲炉裏端で二郎の噂をしていると、入口の障子が急にまばゆく光って大きな音が響き、敷居の下にあった猫の通り穴から真っ赤な火の塊が飛び込んできた。火の玉は囲炉裏の縁をかすめ、奥の間の神棚へすっと消えた。付き添っていた母親は、優しい子だったから死ぬ前に家へ帰ったのだと言い、隣のおばあさんも同じころ風呂場の外が昼のように明るくなったのを不審に思っていた。戦病死の公報は同年十二月十三日付で届いた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 4 夢の知らせ・火の玉・ぬけ出した魂』は、松谷みよ子が編んだ「現代民話考」の一冊である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』のアンケートへの回答や聞き書き、新聞・雑誌の記事から集めた、予知夢や死の知らせの夢、死者や神仏の夢告げ、死の前後に出る火の玉、生きている人から抜け出す魂の話を各地から収める。三章それぞれの冒頭に編者の論考「考」を置き、項目ごとに代表的な語りと、県別に並べた短い報告を話者・回答者・出典を添えて載せる。