婚礼の夜に大蛇となった長者の娘
どんな伝承か
中野長者には露野という美しい一人娘がいた。近郷の若者が思いを寄せるなか、高田の小太郎という物持ちの武士が叔父を立てて談判し、婚礼が調った。祝言の夜は九月十三日、名月が昼のように明るかったが、突然、熊野の森の上に黒雲が湧き、大風と篠つく雨で天地が震えるほどの嵐となった。そのとき長者の家からすさまじい大蛇が這い出し、十二社の池へ躍り込んだ。よく見ると、それは長者が最も愛した娘の変じた姿だったという。以後、屋敷には妖気が立ちこめ、通りかかった春屋禅師が異変に気づいて長者の家を訪れた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
城西風土記と昔語り(熊沢宗一・1959年(昭和34年))
『城西風土記と昔語り』は、東京中野の江古田に住んだ熊沢宗一が昭和三十四年に著し、自ら発行した郷土誌である。中野長者と淀橋の伝説、御犬小屋や桃園の旧跡、新井薬師、江古田の獅子舞、内藤新宿や高田馬場の昔語りなど、中野と近在の伝説・旧跡・寺社を、古文書や碑文、琵琶歌も交えて記す。全二十章の後半には著者の百姓時代や終戦直後の食糧事情、台風の被害、日露戦争の軍隊日誌を収め、巻末に著者略歴を付す。