少女お秋の句と上野の秋色桜
どんな伝承か
上野公園の清水堂の裏、井戸のそばに秋色桜と呼ばれるしだれ桜がある。日本橋小網町の菓子屋の娘で十三歳のお秋は、花見に来てこの桜を見ると、井戸端で酔う花見客を危ぶむ句を詠み、枝に結んでおいた。それを輪王寺の宮が見つけ、少女の作と聞いて感心し、お秋を呼んで句会を開くと、その日の句もみな見事だったので、以後もたびたび召して句作を共にした。ある日、宮を拝みたいという父を供の老爺に仕立てて連れて行った帰り、夕立に遭うと、お秋は自分が歩いて父を駕籠に乗せたという。筆者はこれを講談の筋とし、桜の名は後に俳諧の宗匠秋色となったお秋の句に由来すると記す。別の記録では、花見の席でお秋が皆に桜の枝を折って配ったので怪しまれたが、その桜はお秋が自分で植えたものと分かって秋色桜と呼ばれたという。お秋を架空の人とみる説まであるが、俳人秋色が寒玉という人の妻となって子をもうけ、享保の年に世を去ったことは記録に残る。
原典より
するとそれを上野の輪王寺の宮さんが御覧になって、十三歳の少女の作ときいて非常に感心して、是非その少女に会いたいといい出した。—— 江戸動物民話物語(窪田明治) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸動物民話物語(窪田明治)
『江戸動物民話物語』は、「郷土史・東京」の刊行会を主宰した窪田明治が、東京の郷土史を調べた材料から江戸の民話を選んでまとめた本である。狐や狸、猫、蛇が人を化かし、恩を返し、祟る話を中心に、本郷・王子・向島・麻布・三田など東京各地に伝わる話を収める。狐・狸・猫・蛇・不思議な生き物の五部に分け、一話ごとに舞台となった土地の史跡や寺社の由来、沿革の解説を添え、まえがきとあとがきを付す。