足が止まった山中の楠の巨木
どんな伝承か
今から一五年ほど前、私は小学四年生の担任だった。放課後、子どもたちに誘われて「不思議な木」を見に行った。中心集落の北側の山の中腹にあるその木は、昔から小田原の海を通る漁師たちが目安にしていたという楠の巨木で、全体の形がちょうど原爆雲のようであった。夕方、子どもたち数人と畑やみかん畑を越え、藪を分けて目的地に着いた。木の根元には石の祠が倒れて埋まるように散っていた。そのとき、我先に登っていった子どもたちが全員ぴたりと立ち止まり、こわいよ、足が動かないという。私も体の中にびりびりと何かを感じた。子どもたちの小遣いや菓子を神様に供え、皆で手を合わせると、身体が軽くなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考・昭和〜平成)