足が止まった山中の楠の巨木
どんな伝承か
一五年ほど前、語り手が小学四年の担任をしていた頃のこと。放課後、子供たちに誘われて「不思議な木」を見に行った。中心集落の北側、山の中腹に立つ楠の巨木で、昔から小田原の海を行く漁師が目安にしていたという。夕方、畑とみかん畑を越え藪を分けて着くと、日は箱根の明神ヶ岳の方へ落ちようとしていた。木の根元には石の祠が倒れ、埋もれるように散っている。と、我先に登っていった子供たちが全員ぴたりと立ち止まり、足が動かないと訴えた。語り手自身も体にびりびりと何かを感じる。子供たちから小遣いや菓子を集めて神に供え、皆で手を合わせると、息がふうと抜けて体が軽くなった。その場所は小字をヨミ(余見)という。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 9 (木霊・蛇)(松谷みよ子・現代民話考)
『現代民話考 9 (木霊・蛇)』は、松谷みよ子が全国の回答者から寄せられた報告と各地の民話集をもとに編んだ『現代民話考』の一巻である。明治から平成にかけて語られた、伐ろうとすると祟る木・泣く木・血を流す木などの木霊の話と、大蛇やつちのこ、蛇婿・蛇女房、主や守り神としての蛇、蛇と福運などの話を、話者や回答者の名とともに収める。第一章「木霊」と第二章「蛇」を主題ごとの節に分け、各話例の後に「分布」として類話の地名と出典を並べる。