湯の窓で呼んではならない亡き妻
どんな伝承か
恐山の境内には五つの湯が湧き、夕暮れに湯けむりが高く立つころ、会いたいと願う死者が生前の姿で浴舎の窓の外を通り、地蔵堂へ向かうと言い伝えられる。ただし決して声をかけてはならず、禁を破れば後で恐ろしい目にあうという。昔、陸中から来た中年の男が亡き妻を思いながら湯につかっていると、窓の外を悲しげな妻が通った。思わず名を呼ぶと、妻は窓の前へ戻り、恐ろしい目つきで男を正面からにらんだ。男が顔を伏せ、上げたときには姿はなかった。夜明けに山を下りた男はその目が忘れられず、まもなく原因のわからない病で妻の後を追うように亡くなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
むつ市史 民俗編(むつ市史)
『むつ市史 民俗編』の口承の章から、下北に伝わる伝説と世間話を抜き出したものである。苫生野や田名部川の口碑、蠣崎氏や落人の宝の伝え、恐山の開基と天狗・霊話、常念寺の仏、横迎町の竜神と河童、行人塚、半太窪、飯綱の噂、奥内・関根・大湊・田名部の狐の話などを収める。菅江真澄の紀行の記事を引きながら、むつ市とその周りの土地の伝えをまとめている。