父島の洞穴に残された兵の遺品
どんな伝承か
夏の父島で、著者は夜明け前に活き餌の入った重いバケツと竿を担いで釣り場へ向かっていた。寝坊した遅れを取り戻そうと、山道の途中から藪をかき分けて近道を試みる。ところがヘッドランプは点かず、闇のなかで呼吸すら苦しくなった。荷を放り出して立ちすくんだとき、背後から草を分ける音が近づいてくる。人ではないと直感し、手探りで竿を握った瞬間、気配は道のないはずの右手の原生林へ去った。帰りに同じ場所をたどると涸れ沢があり、その先の崖下の浅い洞穴で、日本兵の雑嚢と銃弾、正露丸の小瓶を見つけた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
水辺の怪談 ベスト(つり人社)
『水辺の怪談 ベスト』は、釣り人たちが海や川で出会った怪異の体験談を集めた本である。お盆の夜釣りでの金縛り、伊豆大島の釣り宿の離れ、渓流の滝壺や湖のボート、バス釣りの遠征先の宿などを舞台に、釣具店主・会社員・釣りライター・バスプロら十七人が自身の体験を一人称でつづる。「海の章」五編と「川・湖の章」十二編の二部に分け、各編の冒頭に筆者の在住地と釣り歴を記した短い紹介を置き、四人は仮名で書く。