火葬炉の奥で輝いた千体仏
どんな伝承か
東京都北区の林喜美は五十代で、二年前に巨大な卵巣嚢腫の手術を受けた。全身麻酔のマスクを当てられたとたん、自分が棺の中に横たわっているのに気づいたという。こんなに早く死ぬと知っていたら夫と息子に言い残すことがあったのに、と思う。棺を載せた台車が急に走り出し、目の前で火葬場の炉の扉が開いて激しい勢いで運び込まれた。だが炉に火はなく、ごつごつした岩肌の洞穴が奥まで続いていた。気がつくと岩には千体の仏が刻まれており、そのうちの一体が観音のように大きくなってまばゆく輝いた。目を閉じると光に吸い込まれ、外へ飛び出したところで医師の終わったという声を聞いた。無影燈の反射かとも考えたが、目は覆われていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。