病院前で乗せた娘と線香の匂う家
どんな伝承か
作家の石原慎太郎が友人から聞いたというタクシー運転手の話である。築地の菊地病院の前で風呂敷包みを持った若い女を乗せ、浜町へ向かった。しばらく走るとバックミラーに女が映らず、信号待ちで振り返ると座席は空で、触れるとぞっとするほど冷たかった。青信号で走り出すと、後ろから青山へ行ってと女の声がし、青山の近くでは、やはり浜町へ戻ってと言う。言われた路地の家に着いても返事は無く、玄関を開けると線香の匂いがした。家の人の話では、その家の娘が一昨日菊地病院で亡くなり、火葬を終えて帰ったところだった。青山には娘の恋人の家があったという。
原典より
ダイヤルを回して「もしもし、あなたのところで入院している運転手さんいませんか」と私はいきなりいった。—— 日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。