山路に迷い着いた無人の家
どんな伝承か
上閉伊郡金沢村は白望の麓にあり、上閉伊郡の中でもことに山奥で、行き来する人も少ない。六、七年前、この村から栃内村の山崎にある某の家へ娘が嫁に行った。その嫁が実家へ帰ろうとして山路に迷い、またあのマヨイガに行き当たった。家の様子も、牛馬や鶏の多いことも、紅白の花が咲いていたことも、すべて前の話のとおりである。玄関に入ると膳椀を取り出した部屋があり、座敷では鉄瓶の湯がたぎって今にも茶を煮ようとするように見え、便所のあたりに人が立っているようにも思われた。茫然とし、次第に恐ろしくなって引き返し、ついに小国の村里に出た。膳椀を取りに山へ入った人々は、門があったという所まで来ても何も見つけられなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。