長浜の岩穴で美女と見えた髑髏
どんな伝承か
明治二十九年八月の下旬、夏休みを終えて伊江島から首里の師範学校へ戻る学生三人が、御用船で読谷山の長浜に寄り、浜で一夜を明かした。遠くから聞こえる舞遊び(男女が頬かむりをして、輪になった人々の歌と手拍子に合わせて踊る風習)の歌に誘われて出かけた三人のうち、妻子のある年長の一人は途中で引き返したが、思い直して再び向かうと歌はぴたりとやみ、道に迷った。灯をたよりに着いた森の一軒家は、調度もなく行燈がともるだけの広い家で、美しい娘が麻糸を紡いでいた。娘は、自分も首里の女だがわけあってここで一人侘び住まいをしていると言い、勧められるまま泊まって一夜を共にした。一番鶏で目覚めると、大きな家と見えたのは珊瑚礁の岩穴で、抱いて寝ていたのは髑髏だった。逃げる途中で会った白髪の老人は、ほかにもたぶらかされた者がいるが、わけを話せば祟られると笑ったという。
原典より
ところが、自分と添寝して、性のいとなみをした美女の姿が見えないので、あたりを見廻すと大きな家と思ったのは、珊瑚礁の岩穴であった。—— 沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
沖縄怪談集 逆立ち幽霊(伊波南哲)
『沖縄怪談集 逆立ち幽霊』は、石垣島で育った詩人の伊波南哲が、新聞や雑誌に書いた話と書きおろしを合わせ、沖縄の怪談を物語風に綴った怪談集である。那覇の辻遊廓や一日橋、首里、石垣島・竹富島などを舞台に、遊女や捨てられた女の幽霊、遺念火、キジムナー、お化け封じの術を描き、戦後のタクシー幽霊の噂や東京で起きた位牌の嫁入りの話も取り上げる。題を付けた二十二話のあとに「怪談断片集」を置き、少年時代を語る「果たして幽霊はいるのか」で結ぶ。