円融寺の縁日と鳥の巣の髑髏
どんな伝承か
文久三年四月のある日、無頼の伝八郎は目黒から碑文谷へ続く森を当てもなくぶらついていた。桜の花びらが白い羽虫のように舞い、欅の若葉が薄暗い林を所どころ明るくしている。悪戯心から杉の梢の鳥の巣へ石を投げると、巣は落ちて額を打ち、拾い上げた灰色のものは陶器ではなく人の髑髏だった。縁起でもないと放り捨てて歩くうち、碑文谷の円融寺の傍へ出る。仁王尊が開運に霊験ありとされる寺の門前は縁日で賑わい、並木の外側には娘軽業の小屋が掛かっていた。柔術の立ち合いができるという口上に誘われて木戸をくぐった伝八郎は、綱渡りの太夫に見とれることになる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(二)(田中貢太郎・日本の怪談シリーズ)
『日本の怪談(二)』は、田中貢太郎が著した怪談・奇談の短編集である。著者の郷里である土佐の高岡郡や長岡郡の山村の話を多く含み、越中の放生津や立山、利根川の河口、館林の城下、江戸の碑文谷などを舞台に、蟹や蛇の怪、鮭の祟り、山姑、亡者宿、切支丹の処刑にまつわる怪異を物語の形で書く。「蟹の怪」から「鶏物語」まで二十八篇を収め、友人から聞いた話として語る篇もある。