狐が転がす火の玉を奪った大工
どんな伝承か
江戸の本所亀戸で、名主の地所に住む大工が、ある夏の夜に涼んでいると、狐が一匹出てきて何かを手で転がしていた。転がすたびにぱっと火が燃え、狐はその明かりで地面を照らして虫を拾って食べている。大工が怪しんで少しずつ近寄っても、狐は虫拾いに夢中で気づかない。玉が手もと近くまで転がってきたところを大工がつかむと、狐は驚いて逃げていった。それは白い玉で、大工は大事にしまい込み、寄り合いの帰りに客が草履を探すときなど、これを転がして火をともし、付け木もいらずに明かりにしたという。
原典より
江戸本所龜井戸の名主地面に住する大工某。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。