猟師権平が見破った化け狐
どんな伝承か
久留米の十二軒屋がまだ竹やぶの続く村だったころ、猟師の権平は妻のお咲と静かに暮らしていた。冬、山の猟小屋で獲物を待つ権平のもとへ、お咲が饅頭を持って訪ねてきた。喜んで麦わらを焚いて話し込むうち、髪についた麦の穂がはじけてお咲のそばに落ちると、尻のあたりでぱくぱく音がして穂が消えた。正体を見破った権平が尻を狙って撃つと、古狐が転がって倒れた。また別の日、川辺に洗濯に来た女が薄気味悪く笑うので撃ったが外れ、女の抱えた桶を撃つと、大きな古狐が倒れていた。十二軒屋の辺りでは、狐は逆さになって化け、持ち物があればそれが正体だと今も言われている。
原典より
目の鋭い權平はすぐにその正體を看破して鐵砲をこるなり音のした臀部を覗つてズドンこ一發食はしたら忽ち古い一頭の狐がもんごりうつて倒れたのであつた。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。