不幸に理由を与えるサワリの信仰
どんな伝承か
憑きもの信仰のもう一つの意味は、病や不幸、死に理由を与えることにある。人は、病気が細菌で起こることも、怪我がスクーターの畑への転落のせいであることも知っている。それでも、なぜ自分だけが怪我をしたのか、なぜ急に赤ん坊が死んだのか、なぜ我が家ばかり不幸が続くのかという問いには、医学も科学も答えてくれない。そこで、近ごろ金ができて誰かの妬みを買ったせいだ、土地争いで恨まれたせいだとサワリに理由を求めることで、苦しみに意味が与えられ、いくらか耐えやすくなる。こうした信仰は医療と両立しうるもので、高知県幡多郡の村では、祈禱と薬をともに使えという意味で「祈れ、くすれ」と言うそうだ。
原典より
* 妬み深い憑きもの* 妖術の盛んな社会の特色* 憑きものの社会的条件* 憑きもの筋の持続* **注*** **あとがき**### **序章「憑きもの」に憑かれて**—— 日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年))
『日本の憑きもの』は、吉田禎吾が一九七二年に著した人類学の研究書である。キツネ・イヌガミ・オサキなどの憑きもの信仰と、それを家筋で伝える憑きもの筋を、島根・高知・大分などの村での調査事例と古記録をもとに取り上げ、アフリカやヨーロッパの邪術・妖術と比べて論じる。三章立てで、憑きものの正体と特色、憑きもの筋の形成と伝播、憑きものが村落社会で果たす働きを順に述べ、注とあとがきを付ける。