供出米の恨みで隣人に憑くと噂されたM夫人
どんな伝承か
島根県T部落で、たびたび人に憑くといわれたM夫人(五十三歳)は、向こう気が強く妬み深い人とされていた。十八歳でよその村から嫁ぎ、三十六歳で夫を亡くしてからは、女手ひとつで一町五反の田畑を切り盛りし、七人の子を育て上げた。近所のB氏に憑いたと噂されたが、M夫人自身は戦後の米の供出を恨んでいた。家が困っていたのに供出米を出せと責められて自分たちの食べる分まで取られ、百姓なのに配給米をもらう羽目になった。そのときの立会人がBさんとYさんで、いまも顔を合わせると腹が立つと語ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年))
『日本の憑きもの』は、吉田禎吾が一九七二年に著した人類学の研究書である。キツネ・イヌガミ・オサキなどの憑きもの信仰と、それを家筋で伝える憑きもの筋を、島根・高知・大分などの村での調査事例と古記録をもとに取り上げ、アフリカやヨーロッパの邪術・妖術と比べて論じる。三章立てで、憑きものの正体と特色、憑きもの筋の形成と伝播、憑きものが村落社会で果たす働きを順に述べ、注とあとがきを付ける。