友の背に見えた黒い影
どんな伝承か
卒業を控えたある日、優子さんは県外の高校に通うことが決まっていた典子さんと校門の前で別れた。典子さんは急に不安そうな顔になり「私たち、ずっと友達だよね」「急にもう会えないかもしれないと思って」と言った。呼び止めようとした優子さんの目には、典子さんの身体全体に黒い影がまとわりつき、背中から腰にかけて人とも鬼ともつかぬ奇妙な生き物がしがみついているように見えた。目をこすると、いつもの背中に戻っていた。その日の午後、震災と津波が町を襲い、典子さんは行方不明のまま今も見つかっていない。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介)
『震災後の不思議な話-三陸の怪談』は、宇田川敬介が著した東日本大震災の被災地の怪異談集である。復興の手伝いで通った三陸の人々から聞いた虫の知らせや生死を分けた出来事、津波の犠牲者の霊、タクシーの幽霊などの話を、津波の言い伝えや『遠野物語』、オシラサマ伝説とあわせて記す。全体を「迫りくる危機と虫の知らせ」から「見守っています」までの四幕に分け、「おわりに」で取材の動機と、話者の名や地域を伏せた方針を述べる。