土手に残った五本の木の人影
どんな伝承か
かつてマイカルが映画館を展開していた町の、隣町との境をなす川の堤防が舞台である。津波のあと、土手には五本の木だけが残り、その枝には遺体の一部や衣服など多くの遺品が引っかかっていた。がれきの整理でそれらが片づけられたころから、五本の木の横に人が立っているという噂が流れた。夜、そこに立つ五、六人の人影を見て「首つりしている人がいる」と通報するボランティアも出た。ある日の夕暮れにも通報があり、駆けつけた若手の警察官が木の上を見上げたまま「そこに何人か」と言い続けた。ベテランが大声を出して肩を叩くと、人影は消えていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介)
『震災後の不思議な話-三陸の怪談』は、宇田川敬介が著した東日本大震災の被災地の怪異談集である。復興の手伝いで通った三陸の人々から聞いた虫の知らせや生死を分けた出来事、津波の犠牲者の霊、タクシーの幽霊などの話を、津波の言い伝えや『遠野物語』、オシラサマ伝説とあわせて記す。全体を「迫りくる危機と虫の知らせ」から「見守っています」までの四幕に分け、「おわりに」で取材の動機と、話者の名や地域を伏せた方針を述べる。