一周忌のATMに並ぶ濡れた人々
どんな伝承か
岩手県で著者が町おこしを手伝った町で、地元の女性から聞いた話。彼女は婚約者を津波で失い、三か月のあいだ避難所と街を歩き回って彼を探し続けた。震災からちょうど一年たった三月十一日、慰霊祭へ向かおうとして財布に金がないことに気づき、仮設の銀行ATMに行くと、ひどい人だかりができていた。急いでいると声をかけると、ATMから出てきたのは失った婚約者だった。「早く復興しないと、大事な彼女が幸せになれないから」と言う。前に並ぶ人はみな水に濡れていて、こちらを振り返って微笑んでいた。彼は「復興がんばれよ。見てるからね」と言って消えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
震災後の不思議な話-三陸の怪談(宇田川敬介)
『震災後の不思議な話-三陸の怪談』は、宇田川敬介が著した東日本大震災の被災地の怪異談集である。復興の手伝いで通った三陸の人々から聞いた虫の知らせや生死を分けた出来事、津波の犠牲者の霊、タクシーの幽霊などの話を、津波の言い伝えや『遠野物語』、オシラサマ伝説とあわせて記す。全体を「迫りくる危機と虫の知らせ」から「見守っています」までの四幕に分け、「おわりに」で取材の動機と、話者の名や地域を伏せた方針を述べる。