三州八名郡山伏の霊
どんな伝承か
三河の国の二百石取りの武士、山香佐野右衛門が狩りの帰りに賃馬を雇うと、後から来た山伏がその馬を譲れと迫り、法力を見せて脅した。佐野右衛門がその首をはねると、山伏の首はなおも彼をにらみ続けた。その夜から山伏の死霊が屋敷に現れるようになり、家の者は気絶したり病んだりして、妻子も下男下女も去っていった。同役の武士たちが斬りかかっても刀は空を切るばかりだった。佐野右衛門は病と称して引きこもり、九年にわたって死霊とにらみ合った。その間、帰宅した十五歳の息子佐介は首を切られかけて不具となった。九年目の秋を境に死霊は出なくなり、佐野右衛門は勤めを休んだ間の禄を同役に分け与えたという。
原典より
あやしみながらともしびをかけて見れば、何のこった、白 に手にかけてころ殺した山代が、さもおそろしきさまして、佐野右衛門をにらんで立ちてゐるのだ—— 実説妖怪新百話 より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話
『実説妖怪新百話』は、著者名の記されない怪談集で、日露戦争の後に編まれたとみられる。本郷駒込曙町の世外庵に住む天保初年生まれの老翁の勧めで、門下生三十六人が籤で順番を決めて百物語の会を開き、自分の見聞や親・知人から聞いた話を語る趣向をとる。武家の妻の執念、化物屋敷、狐狸の化かし、前妻のたたり、漁師の幽霊の帰宅などを、会津・三河・東京・房州館山・野辺地・若狭小浜・盛岡などを舞台に題ごとに並べる。