袖を掴んで海へ引きずる海坊主
どんな伝承か
宮城県鮎川町から東方の沖合にある孤島網地島は、網地と長渡の二つの部落に分かれている。長渡は大正時代に大戸平という名力士を産んだところだが、その祖父の時代というから藩政時代の末のことらしい。この人物も力自慢の大男であった。夏の夕べ、砂浜を歩いていると、夕闇の中から突然、袖を掴んで引っぱるものがある。手首を握ろうとしたが、ぬるぬるして掴めない。海坊主である。ずるずると引きずられ、砂浜の船につかまると、船もろとも引き込まれそうになった。折よく通りかかった部落の人が怒鳴ったので海坊主は袖を千切って倒れ、その隙に逃げ帰った。祖父はそれから病みつき、しばらくして亡くなったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。