野末の道に飛んできた愛妾の生首
どんな伝承か
下総国古河の城主本間某は、野末という土地に愛妾を住まわせ、夜分にひそかに通っていた。古河から野末までは十八、九町ほどで、供は一人だけだった。ある夜の道中、前から白いものが飛んできたので主従がよく見ると、女の生首だった。本間に捨てられて自害した以前の愛妾の首で、本間の肩をかすめて消えた。二、三年後、この話が出た折に本間が供の者に尋ねると、見たが誰にも話さず忘れていたと答え、一座は感心した。本間は、女など五体そろっていても大したことはできない、首だけなら恐れるに足りないと言い放ったという。
原典より
道を歩いていると、前方から白い物が飛んできた。—— 怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。