雪中の幽霊 お菊の黒髪
どんな伝承か
越後の関山村には魚野川が流れ、橋が架してあるが、川幅が広く急流で、出水すると流失する。橋から落ちて溺死する者もいた。村の片ほとりに独り草庵を結んで住む源教という六十あまりの念仏の道心坊がいて、二夜に一度はその橋に立って溺死した者の回向をしていた。満願の夜、月が遽かに曇り、水中から青い火が閃々と燃え上がって、黒髪を乱した青ざめた女が橋の上に現れた。体は透き通り、腰から下はあるともないともおぼろげである。女は古志郡何村の菊と名乗り、今夜が四十九日の待夜だが手向ける人もなく、黒髪が障りで成仏できぬからこれを剃ってほしいと願った。源教は翌夜、紺屋七兵衛を証人に隠して庵に女を迎えた。
原典より
そのうちいつの間にかお菊の幽霊が坐っている。—— 怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
怪談の世界(山田野理夫・1978年(昭和53年))
『怪談の世界』は、山田野理夫が昭和五十三年に著した怪談の研究随筆である。遠野での佐々木喜善と柳田国男の出会いから説き起こし、家・山・木・石・道・水・火に現れる妖怪、憑き物、鬼と天狗、生霊・死霊・幽霊の話を、著者の聞き書きや各地の民俗資料、古典・芝居から集め、沖縄の話で結ぶ。章立ては江馬務と柳田国男の妖怪分類を参考にしたもので、民俗学の資料と文学作品の両面から怪談をとらえようとしている。