見るたび増える一つ目の怪
どんな伝承か
仙北の南部境、仙厳峠のふもとに生保内という宿場があり、旅人は旅籠の女に生保内節を聞かされたものだった。南部藩士松沢喜内は久保田からの帰りにここへ泊まった。用向きが思わしくなく気は晴れない。行燈を消して横になっても寝つけずにいると、足もとに目がひとつ見えた。その目を見つめると、そこからもう一つ目が生まれる。見るたび新しい目が出て、数は百を超えた。喜内は恐ろしくなって布団をかぶった。ところが翌日登城すると用向きは首尾よく片づいており、以後も旅籠で目に出会った交渉はうまく運んだ。目が出るのは縁起がよいという語呂合わせか、と喜内は呟いたそうである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
東北怪談の旅(山田野理夫・1974年(昭和49年))
『東北怪談の旅』は、山田野理夫が昭和四十九年に編んだ東北地方の怪談集である。青森・秋田・岩手・宮城・山形・福島の六県に伝わる妖怪や幽霊の話、飢饉と間引にまつわる話、江戸時代の奇談などを、一番から一六三番までの短い話として収める。各話の末尾に県名を記し、恐山や飢饉の記録にふれて東北の怪談と怨念を結びつけるまえがきと、怪談観や霊能者をめぐる回想を記したあとがきを付す。