主の身代わりに枯れた鉢植えの梅
どんな伝承か
江戸時代の中ごろ、江戸の駿河台に、梅の鉢植えを数多く持ち梅屋敷と呼ばれた武士山中平吉がいた。重い病で望みも薄くなったある夜、夢に童子が現れ、自分は長年手厚く養われてきた者で、恩返しに身代わりになる、今の医者の薬では効かないので、同役の篠山吉之助に頼んで別の医者を招けと告げた。翌日、篠山を呼びにやろうとすると、当の篠山が、昨夜夢で誰かに病床を訪ねて薬の相談をせよと告げられたと言ってやって来た。二人は夢の一致に驚いて医者を替えると、病は日ごとによくなって全快したが、それにつれて最も愛でていた梅の鉢植えが一本しだいに弱り、ついに枯れたので、梅の精が身代わりになったのだと思われたという。
原典より
病気がよくなるに連れて、平素最も愛賞してゐた鉢植の或る梅が日々衰弱し、終には枯死をしたので、此梅の精が身替りになつたことと感じられた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。