道祖崎の瀬で二度釣り上げた赤子
どんな伝承か
錦見の武士某がある夜、道祖崎の瀬に舟を出してイダを釣っていると、大物がかかった手ごたえがあった。喜んで引き上げると、それは赤子だった。当時は私生児を身ごもると堕胎して薦に包み、川の瀬に流す風習があったので、これもそれだろうと思い、穢らわしいと糸を切って捨て、舟を上流へ漕ぎ上らせて吸江の上まで来た。ここなら安心と釣りを再開すると、また掛かったのは赤子だった。これには大いに恐れ、釣り道具を捨てて家に逃げ帰ったという。編者は錦川に多かった獺の仕業かと記している。
原典より
錦見の士何某、或夜、道祖崎の瀬に舟を代して伊多を釣り居たりしに、図らずも大伊多の釣に掛りしと覚え、喜て引上げ見れば、一個の赤字のかりしなり。—— 岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
岩邑怪談録(広瀬喜尚(増補:今田純一/続録・編:藤田葆/付録:静間密/昭和版編集:宮田伊津美)・1976年(昭和51年))
『岩邑怪談録』は、岩国藩士広瀬喜尚の怪談録に後人の増補と続録を合わせ、岩国徴古館が昭和五十一年に発行した資料集である。岩国周辺で人々が出会った化物・大坊主・生首・怪火・狐狸・天狗倒し・幽霊などの話を収め、藤田葆が編んだ『岩国沿革志』のうちの二冊を底本に、なるべく原文のまま新字に改めて載せる。広瀬の本録に、今田純一の追加、藤田の続怪談録と実事談・変死、静間密の付録五話を続け、巻末に語注を付す。