割れた頭から出た猿のような赤子
どんな伝承か
七月十日、稲生屋敷では、平太郎となじみの貞八の頭がしだいに大きくなり、たちまち二つに割れて、中から猿のような赤子が三つ現れた。これも例の化け物の仕業かと平太郎が放っておくと、赤子たちは膝もとへ這い寄り、三つが一つにまとまって大きな童子となり、平太郎めがけてつかみかかってきた。憎いやつと捕らえようとすると、たちまち消えて跡形もなかったという。平太郎は罠などで物の怪を退治しようとは考えず、何事も慰みと受け流していた。
原典より
貞八が頭次第々々に大きく成けるが、忽ち二ツに割て、中より猿の如き赤子三ツ顕れ出たり。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。