目を開けば朝日のように明るい一つ目
どんな伝承か
平田篤胤が記した『稲生物怪録』によると、備後国三次の稲生平太郎は、寛延二年五月の末に隣家の三津井権八と比熊山で肝試しをしたが、その夜は何も起こらなかった。ところが七月一日、梅雨も明けたころの大雨の夜、午前二時ごろに一陣の風が灯を吹き消し、障子が火事のように赤く染まった。それは丸太のような体に荒々しく毛の生えた怪物で、目は大きな一つ目、見開くと朝日のように明るく蟻の這うのまで見え、閉じると真の闇になった。これが稲生屋敷に一か月続く怪異の始まりであった。
原典より
くわっと開けば朝日のようで蟻の這うのも見えるほど。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。