死の時刻に二階の戸を鳴らした音
どんな伝承か
亡くなる三、四日前、牧野吉晴は筆者の家に立ち寄って酒を重ねた。病後で量を控えていると言いながら珍しく酔い、家の内情や貯えのことまでしみじみと語る。三日後に近くの椿山荘の忘年会へ呼ばれているから、その帰りにまた必ず寄ると繰り返し言い置いて帰って行った。だが当夜、牧野は椿山荘のあと銀座のバーへ回り、そこで階段から落ちて死ぬ。ちょうどその時刻、二階でテレビを見ていた七つの孫娘が、誰かが来て表の戸を鳴らしたと言って駆け降りて来た。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
私は幽霊を見た(東雅夫(編)・MF文庫ダ・ヴィンチ)
『私は幽霊を見た――現代怪談実話傑作選』は、東雅夫が編んだ怪談実話のアンソロジーで、メディアファクトリーのMF文庫ダ・ヴィンチの一冊である。平山蘆江・火野葦平・佐藤春夫・徳川夢声・遠藤周作・柴田錬三郎から石原慎太郎・新倉イワオ・稲川淳二まで、作家や文化人が自ら見聞きした幽霊や怪異を書いた文章を集める。目次には二十三篇と編者解説が並び、水木しげる・山田野理夫・桝井寿郎の座談「怪談詮議」や中岡俊哉「イタコの謎を追う」の抄録も含む。