坂を下りてきた亡き弟の裸足の足音
どんな伝承か
姶良郡隼人町の桐原忠利が語る、六つの年(明治三十四年頃か)の二月十六日の話。みぞれまじりの雨の日、祖母の病室の隣の部屋で父と囲炉裏にあたっていた。外は道路で足音まで聞こえるはずなのに、昼間なのに夜半のように静かであった。二時頃、突然大きな裸足の足音が坂道を下りてきた。父が障子を開けても人影はないのに足音は聞こえる。足音が病室の入口の外で止まると、祖母が大声で「助ドンな、迎い来っ呉いやったろ」と呼びかけ、まだ準備ができていないから今夜は泊まってくれ、明日一緒に行く、と言った。助ドンとは祖母の亡くなった弟であった。その夜の明け方、祖母は息絶えた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。