兄の腿を貫いた二度の弾
どんな伝承か
語り手たちが小さい頃、この辺りではよく兎獲りをした。父が鉄砲を持ち、兄弟三人が兎を追うのである。兄が戦争に行く前の冬の朝、下の田圃に兎の足跡を見つけて追うと、足跡は雪の盛り上がった所で消えていた。語り手と兄がその雪盛りに上り、父が鉄砲を構えた。兎が飛び出すと同時に兄も踏みつけようと飛び出し、父の撃った弾が兄の腿を貫いた。その傷があるから不合格だろうと思われたのに兄は甲種合格し、機関銃隊として北支の前線に立ち、敵の弾六発をすべて同じ腿に受けた。病院へ運ばれる途中に泥水を飲み、それがもとで死んだ。前々からこの足で命を取られると思っていた、と運んだ人に言い残したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。