兄の腿を貫いた二度の弾
どんな伝承か
語り手たちが小さい頃、この辺りではよく兎獲りをした。父が鉄砲を持ち、兄弟三人が兎を追うのである。兄が戦争に行く前の冬の朝、下の田圃に兎の足跡を見つけて追うと、足跡は雪の盛り上がった所で消えていた。語り手と兄がその雪盛りに上り、父が鉄砲を構えた。兎が飛び出すと同時に兄も踏みつけようと飛び出し、父の撃った弾が兄の腿を貫いた。その傷があるから不合格だろうと思われたのに兄は甲種合格し、機関銃隊として北支の前線に立ち、敵の弾六発をすべて同じ腿に受けた。病院へ運ばれる途中に泥水を飲み、それがもとで死んだ。前々からこの足で命を取られると思っていた、と運んだ人に言い残したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・昭和)
松谷みよ子『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』を小話単位で全699話収録。死の知らせ・予兆、あの世(地獄・極楽)へ行った話、死者からのサイン、生まれかわりなど、生死とあの世にまつわる現代の民話を全国から採集し地域・話者つきで収録する。各話に採集地(都道府県・市区町村)と話者・回答者を可能な範囲で付す(県判明606話・市区町村判明489話、戦地や場所不明の話を含む)。原典は読者からの投稿・採訪に基づく現代民話の集成。