湯船寺の本堂で閉ざされた戸
どんな伝承か
昭和三十年のことである。夫の祖父にあたるおじんつぁんは、何度か危篤状態に陥った。ぐったりとなるともうだめかと思われたが、注射をすると生き返り、今、湯船寺まで行って来た、と語った。本堂に人が集まって賑やかなので自分も入ろうとしたところ、本家の栄三郎おんつぁんに、いなじ、おめえまだここに来るのは早い、と本堂の戸をぴしゃりと閉められたのだという。その後も何度か湯船寺へ行ったが、そのたびに友人だった北目電気の平吉さんや近所の遠藤さんに、まだ来るのは早いと戸を閉められた。いずれもすでに亡くなっている人たちであった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。