迎え鐘から千本閻魔堂へ抜けた老婆
どんな伝承か
大正十四年、京都・知恩院前の叔母の家の近所に住む老婆から聞いた話である。その三十五、六年前、金沢近在の出で故郷の白山が見えないのを寂しく思っていた老婆は、盆に珍皇寺へ参り、精霊を迎える迎え鐘を撞いた。故郷の墓を思い浮かべるうち、亡くなった親族五、六人と連れ立って蓮の咲く大池のほとりに出た。極彩色の支那風のお堂から亡母が顔を出し、ここはお前の来る所ではないと左の道を指した。泣く泣く別れて蓮の並ぶ道を進み、参詣の人波に加わると、気づけば千本閻魔堂(引接寺)に来ていた。後日寺の和尚に話すと、小野篁が冥土へ通った珍皇寺の辻から、篁が戻った引接寺へ出たのだと言われたという。
原典より
死の床にある人を囲んで、親類縁者がいまかいまかとみまもっていると、病人はむっくりと起きあがり、「お釈迦さまに会ってきた。—— 現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。