新仲見世で擦れ違った故人
どんな伝承か
二〇〇一年四月八日の日曜、小倉嘉子は短歌の会に出るため浅草で電車を降り、混み合う新仲見世を浅草公会堂の方へ歩いた。向こうから来る人影に目がとまる。足利に住む藍染めの作家、大川仁だった。藍染めの上下に同じ布のベレーをかぶり、幸せそうな、それでいてどこか寂しげな顔で、少し上を見ながら通りの向こう端を過ぎていった。嘉子は二月に新聞で訃報を読んだことを思い出す。翌日、足利市役所へ電話をかけて確かめると、死は二月四日だった。のちに未亡人から、東京へ出るときは必ずその帽子だったと聞かされた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。