軍旗祭で酢を酒と飲んだ古兵
どんな伝承か
昭和十二年六月の初旬頃、弘前歩兵第三十一連隊で軍旗祭があった。この日は兵営を開放しての無礼講で、兵は運動会をしたりして一日中楽しんだものだ。昼近くになって炊事班に行っている者が一升瓶を持ってきて、班内の者に振る舞った。みな飯盒の中盒や蓋に受けて飲んだが、語り手は酒を嗜まないのでなめる程度にしていた。すると誰かが、この酒は酢くさくて駄目だと言った。持ってきた兵は、少し古くなった酒をかっぱらってきたのだから我慢してくれと言って、一本飲ませた。あとで聞くと本当の酢で、古兵たちは酒と思って飲んでいたのだった。古兵をだましてやったと、その兵は言っていたという。
原典より
部下をよくいびる上官の軍力のさやに兵隊たちが醤油をいれておいた。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。