勅語の感想に涙を書かせる知恵
どんな伝承か
師範学校を卒業した者は五ヵ月の短期現役で入営する。筆者も満州侵略が始まる昭和六年四月一日、一年の教師生活を終えて入隊した。入隊するとすぐ軍人に賜わった勅語を朗読して聞かされ、その感想を書かされたが、誰一人として短期現役係の中尉から褒められなかった。勅語の一節に感じいり、そこを聞いて涙がこぼれたと書くべきだというのである。そこで筆者は、同じ内務班で親しくなった初年兵に、来年の初年兵にはこう書けと教えてはどうかと言い残して除隊した。翌年、教えられた新兵は全員が涙にむせんだと書き、下士官も将校も、さすが満州事変下の兵士だと感じいったという。
原典より
○山形県、山形歩兵第三十二連隊。—— 現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。