引き揚げ直後に二時間で消えた千円
どんな伝承か
帰国の二ヵ月ほど前、ソ連の収容所を移った。そこでの作業は草刈りなどの軽作業だった。ある日、草刈りに出て二時間ほど経った頃、突然警戒兵が呼びに来て、日本へ帰すからすぐ戻れという。駅もないのに汽車が止まり、私たちは着のみ着のまま乗り込んだ。夜十時頃ナホトカへ着いて着物をかえ、翌朝九時頃に信濃丸へ乗船した。昭和二十四年十一月三日、舞鶴港に着いた。頭からDDTをかけられ、入浴して衣服をもらった。金を千円もらい、これで田を一、二反買えると思ったが、煙草を買い、饅頭やおでんを食べて、二時間ばかりの間に金はなくなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 軍隊(松谷みよ子・民話・口承文芸)
『現代民話考 ― 軍隊』は、松谷みよ子が編んだ、軍隊と戦争をめぐる現代の民話の集成である。日本民話の会の雑誌『民話の手帖』での呼びかけやアンケート、聞き書きによって寄せられた話をもとに、十五年戦争を中心に徴兵検査から新兵のしごき、戦地、虐殺や飢え、敗戦、収容所、戦犯、軍隊生活の怪談までを収める。巻頭に序文「明日の民話のために」と論考「軍隊考」を置き、十三の部に分けた各話の末に話者と回答者の名と在住地を記す。