父の幽霊と古寺へ
どんな伝承か
ある年の夏、相州三浦三崎の古い寺に滞在した折、寺の御新造から聞いた話である。今から二十五年ほど前、横須賀の工廠のドックで働く若い男のもとへ、東京から美しい花嫁が来た。夫は養父母の顔色をうかがう暮らしに辛抱していたが、夫が悪い女に引かれて家に帰らず、嫁は二年目に実家へ戻り、六月に女児を産んでお秋と名付け、母は再婚した。お秋は祖父母に育てられ、父は早く病死したと聞かされたが信じず、実の父に逢いたいと願ううち、夢の中で父と語り、その夢に相州三浦三崎の地が現れたという。
原典より
或年の夏、相州三浦三崎の古いお寺に滞在してゐました。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が昭和十三年に編んだ幽霊譚と幽霊論の集成である。葬送の習俗や海外の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜の作用による幽霊の説明、乃木大将や許斐大尉の見た幽霊などの実話、古典や伝説に現れる男女の幽霊・怨霊・生霊、幽霊写真、化物屋敷、霊界通信を集める。三篇に分かれ、第二篇は幽霊を男女・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・食物に縁ある幽霊・前知らせなど八項に分類し、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。