婚礼の輿で取り殺され甦った娘
どんな伝承か
浪花の巨商鎌倉某の娘お絹と、隣家の貧しい商人の息子國蔵とは、幼なじみの相思の仲であったが、貧富の差が二人を裂いた。親はお絹を他家へ嫁がせようと輿入れを急ぐ。これを知った國蔵の恋人は嫉妬のあまり発狂して憤死し、その怨霊が祟った。婚家の門に入ろうとしたとき、灯が一斉に消え、朦朧と一人の女が輿の脇に立つと、お絹は一声叫んで息絶えた。香花院に葬られたと聞いた國蔵が墓を暴くと、不思議にもお絹は蘇生した。二人は讃州丸亀の國蔵の叔父の旅人宿に落ち着いて夫婦となり、やがて金刀比羅参りに来た親と対面して和解、丸亀に鎌倉の支店を設けたという。
原典より
彩燈一齊に消えて咫尺を辨まへ難き中へ、朦朧として一人の女、輿の脇に立てば、輿内より一声裂くやうなる叫びを揚てお絹の魂は絶えてゐる。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。