茶釜から頭を出した蛇
どんな伝承か
三縄村松尾では、木の根や縄、かずらであってもクチナワと口にすれば蛇に変わって人を追ってくるといわれ、その語は忌み言葉とされていた。松尾川の谷には大蛇を祭る三崎明神があり、数えきれない眷属を従えると伝わる。村の悦五郎は道で木の根につまずき、担いでいた斧で三つに切って帰った。翌朝、茶を沸かして茶釜の蓋を取ると十匹ほどの蛇が頭を出して舌を震わせ、麦粉入れの中も同じありさまだった。前日のことを思い出した悦五郎が三崎明神に参り、切ったのは木の根だと詫びて疑いを晴らしてほしいと祈ると、帰宅したときには蛇はみな消えていたという。
原典より
それもそのはず、カマの中から十匹ばかりのヘビが頭を出し、ペロペロと舌をふるわせているのだ。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。