冷たい手の女の正体は大ガマ
どんな伝承か
美馬郡の重清山村と郡里山村の境を流れる鍋倉谷のほとりで、獲物にあぶれて帰る郡里山の猟師源八が道ばたで一服していると、あだっぽい年増が声をかけ、切久保まで送ってほしいと頼んだ。肩を並べて歩くうち思い切って手を握ると、その手は氷を浴びせられたように冷たかった。変化と直感した源八は、わらじが切れたと偽って引き返し、距離をはかって一発撃った。悲鳴とともに女は消え、道に残った血をたどると野田院の大エノキのホラ穴に続き、穴の中で大ガマが血にまみれて死んでいた。野田院とは切久保に住み葉タバコ作りが上手だった山伏の名である。
原典より
「よしッ」とばかり、その血をたよりに探して行くと、野田院の大エノキのホラ穴にまで続いて、穴の中には一匹の大ガマ(ヒキガエル)が、血にまみれて死んでいた。—— 阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
阿波の怪談(横山春陽・郷土怪談・民俗・1958年(昭和33年))
『阿波の怪談』は、横山春陽が昭和三十三年に編み、徳島新聞出版部から発行した郷土の怪談集である。徳島県の各地と土佐との国境の山中に伝わる山女郎、淵や池の主、カッパ、亡霊、火の玉、タヌキやキツネ、大ジャの話を、平安朝の言い伝えから藩政期、明治・大正、昭和の出来事まで、編者が古老に聞き、書物から拾って題ごとに並べる。おわりにでカッパやヘビの話の多い地域や海の話の少なさについて記す。